コトバスキー
連載2「シンボルスカ食堂」「ユリイカ」「ラストオーダー」 連載1「メロンパン」「父を焼く」「里親はじめます」
連載2
- 「シンボルスカ食堂」
- 二十四時間営業
年中無休
どの国にも
どの街にも
どの裏通りにもあって
メニューは一人に一品だけだから
きみは扉を開けて
そう言えばいい
三四朗です
いつもの
- 「ユリイカ」
- 他人が言えることは言わなくていい
他人ができることはやらなくていい
あなたにしか言えないことを
あなたにしかできないことを
しなさい
僕が9歳のとき 津波で死んだ
ママの言葉を思い出した
陸前高田発
能登半島経由の線路の上で
元旦の地震で父親を亡くした狼煙漁港の
15歳の少女に言えることは三つだけ
滅茶苦茶になった世界は
滅茶苦茶になったままでいい
ハザードマップと避難訓練を信じるな
滅茶苦茶な君のままでいい
僕らはサバイバーなんかじゃない
感情と記憶の石炭で走る蒸気機関車
自分の眼で地図を描き
自分の手でレールを敷きながら
長い長いトンネルの先に広がる街は
ユリイカ
僕らの名は
ユリイカ
- 「ラストオーダー」
- 音楽みたいな詩を書きたいと思っている
痛み止めのような詩を
陽射しのような詩を
空腹を満たすような詩を書きたいと思っている
でもそんな詩は食べ飽きた、と常連客の君が打ち明けた
厨房のカウンター越し
午前4時のシンボルスカ食堂で
「ラストオーダーを自分で決めないのが芸術
いつの時代も詩人は年中無休、24時間営業だから」
値札のない詩を書きたいと思っている
百年後に認められる詩を
銃弾を止められる詩を
人間を辞めなくていい詩を
アウシュビッツの後に詩を
この世界が終わる日に詩を書きたいと思っている
でもそんなメニューだけが詩じゃないとも
僕はフライパンを返しながら思っている
連載1
- 「メロンパン」
- 私を棄ててください
真冬の帰り道で
母が言う
そうします、と言った
私の赤いコートの
ポケットで四十年前のメロンパンが
カサカサ鳴った
- 「父を焼く」
- 隅田川の花火が暗い水面に散った
あくる朝
黒い服を着た私が東京駅から乗り込んだ
新大阪行き のぞみ348号
小田原駅通過
瞬きもせず
三河安城通過
振り向きもせず
時刻表通りに
自分の夢の終着駅に向かって
猛スピードで遠ざかる父の背中を
ただホームから黙って見送るしかなかった
母と幼い私たち
独りぼっちの台所で
心の山道で呼べども呼べども帰らない
こだまを
フライパンで焼くしかなかった
読書好きの母の背中
これがあなたの望みですか
これで満足ですか
さわやかに野垂れ死にできましたか
401号室のレールの上で
あした鶴見緑地で
父を焼く
- 「里親はじめます」
- あなたが言った言葉
あるいは言わなかった言葉の
里親になってもいいですか
血の繋がりはなくても
あなたが手に取ったナイフ
その胸に突き立てたナイフの
里親になってもいいですか
迎える家があります
誰かが切った糸
あるいは誰も結ばなかった糸を
あなたが凍えた景色
あるいは見れなかった景色の
里親になってもいいですか
陣痛の痛みはなくても
あなたが温めている卵
あの場所に置いてきた卵の
里親になってもいいですか
取り上げる手があります
この世に響いた産声
あるいは誰にも響かなかった産声を
ここに発表したすべての作品の著作権と責任は私達にあります。
またここで会いましょう! コトバスキー(フロントマン)高野大
※隔週での更新を予定しています。




