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名古屋市瑞穂区のちいさな出版社・桜山社(さくらやましゃ)
桜山社は、今を自分らしく全力で生きている人の思いを大切にします。
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コトバスキー

連載10「ほんとうのたべもの」「最初のこと」「ノーアンチテーゼ ノーライフ」 連載9「言わせとけ」「狂った時計を狂わせる(インサイド)」「狂った時計を狂わせる(アウトサイド)」「じゅぶないる」 連載8「観光案内所」「ガラパゴス日本」「おたがいさまの国」「がんばれ日本」 連載7「純のための詩」「さよならプロレス」「シスター54」 連載6「ゼロ円」「心守り(こころもり)」「ハッピーエンド」 連載5「いちばん」「かくれんぼ」「約束のない怪獣」 連載4「君が欲しい」「飛んでみようか」「ザネリを助けることは難しい」 連載3「はなまる」「影法師」「続けかた」「終わらせかた」 連載2「シンボルスカ食堂」「ユリイカ」「ラストオーダー」 連載1「メロンパン」「父を焼く」「里親はじめます」

連載10

「ほんとうのたべもの」
分かっている人は
食べない
分かっているから
壊れやすい
分かっている人は
想像しない

分からない私は
食べる
分からないから
壊れない
分からない人は
想像する

賢い人は
問わない
賢いから
飛ばない
愚かな私は
問う
愚かだから
飛ぶ

よだかのように
まっすぐに

空よ
お前はもっと広くなかったか

言葉よ
お前はもっと美味しくなかったか

子供が頬張る白米のように
詩人が飲む黒い乳のように

愚かな人は 雨ニモマケズ
分からない人は 風ニモマケズ
ほんとうのたべものを作っている

「最初のこと」
最初に雲丹を食べた人は
どんなに勇気がいっただろう
最初に麻酔を打たれた人は
どんなに心細かっただろう
最初に雪にさわった人は
どんなに冷たかっただろう
最初に火を焚いた人は
どんなに温かかっただろう

最初に空を飛んだ人は
どんなに自由だっただろう
最初に海を見た人は
どんなに感動しただろう
最初に子供を産んだ人は
どんなに痛かっただろう
最初に親に棄てられた子は
どんなに淋しかっただろう

花を見ても一度もきれいだと思ったことがない、と言った
戦争孤児の父は
二十四歳のとき
生まれて初めて自分の名前をカタカナで書いた
タカノマサオ
そして野良犬から人間になった

どんなに嬉しかっただろう
どんなに悔しかっただろう

最初のことを忘れたとき
私達は人間から遠ざかり
最初のことを思い出しながら
私達は人間に近づいていく

遠吠えから産声へ
大人からこどもへ

最初に人を愛した人は
どんなに切なかっただろう
最初に人を愛した人が
最初の詩人なのかもしれない

「ノーアンチテーゼ ノーライフ」
カセットテープが擦り切れるほど聴いた
元春の「ガラスのジェネレーション」が
令和 錆びたナイフみたいなバンドをバックに
セルフカバーを発売すると知った モグラ氏と

古本屋で見つけた文庫版アンソロジーで
シュンタロウの「ネロ」を読んだ ネズミ氏が
令和 社畜の編集者とイラストレーターを従えて
12歳の少年の自殺をテーマに
90年生きても解らない「死」を絵本にするなんて、と

令和七年の最高裁
表現の自由と責任を
昭和のモグラ、ネズミ両氏の原告が
声をそろえて問うた
 
 〈原告側弁護人〉の僕が言う
 読者やリスナーとの約束を破った人間に
 表現の自由はあるのでしょうか
 
 つまらない大人にはなりたくない、と歌いながら
 つまらない大人に成り果てた
 裸の王様のシンガーソングライターとバンドに

そして

 ネロという2歳の子犬の「死」に誓った
 すべての新しいことを知るために
 すべての僕の質問に自ら答えると書いた
 文学界の長老詩人に

最終弁論でモグラ氏が告げる
「約束を破っても謝らない、そんなつまらない大人にはなりたくない」
ネズミ氏は被告席を睨んでいう
「シュンタロウお前はもう死んでいたんだ
ネロの「死」にかけて嘘をつきつづけた人生に」

ノーアンチテーゼ
ノーライフ
過去の自分との約束に
時効はない


※コトバスキーは詩のロックバンドです。
ここに発表したすべての作品の著作権と責任は私達にあります。
またここで会いましょう! 
コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

※隔週での更新を予定しています。

連載9

「言わせとけ」
弱虫でいい
できそこないでいい
無一文でいい
死にたくていい
先生や友達を殺したくていい
家族の厄介者でいい
自分が嫌いでいい
国民なんかでなくていい
一番でなくていい
どこにも行かなくていい
頑張らなくていい
何もしなくていい
馬鹿でいい
苦しくていい
悲しくていい
涙がでなくていい
病気でいい
闘わなくていい
死んでもいい
生きてもいい
こんな詩なんて読まなくていい

「狂った時計を狂わせる(インサイド)」
低いところから
高いところに
流れる水

暗いところから
明るいところに
盗まれる光

狂った時計を狂わせる

冬の津波を春の足音だと言った
制御不能な大人たちの体内時計を

「狂った時計を狂わせる(アウトサイド)」
エノラ・ゲイの股ぐらから
八時十五分に
落ちた少年

弱いところから
強いところに
流れた血

狂った時計を狂わせろ

黒い雨を白い鳩だと言った
オッペンハイマーのストップウォッチを

「じゅぶないる」
空があっての鳥
海があっての魚
森があっての虫
宇宙があっての星
それは変えられない
どんなに時が流れようと

地球があっての人間
蜜蜂があっての世界
終わりがあっての始まり
目に見えないものがあっての
目に見えるもの
それは変わらない
どんなことが起きようと

その自然権を狂わせる 裕福な海賊たちに
タイタニック号の船長たちに
君の船を任せるな
どんな雨が降ろうと
どんな風が吹こうと

闇があっての光
魂があっての体
君があっての僕
言葉にできない気持ちがあっての
言葉にできる気持ち
ジュブナイルという名の


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コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

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連載8

「観光案内所」
闇を見るための観光
凡庸な悪を知るための

富士山ゴミ拾い日帰り弾丸ツアー
東京ディズニーランドでの参加型
エレクトリカル・お葬式ごっこ・パレード
広島原爆資料館での夕食付
映画「オッペンハイマー」鑑賞
福島原発の見学では別途二千円で
使い捨ての防護服を要着用のこと

自分を知るための観光
世界の歩き方を学ぶための七転八起

風光明媚なイタリアのランペドゥーザ島
難民収容センターでの宿泊体験ツアー
アフガニスタンの現地の子供達と一緒に
レンガ作り体験
そして南スーダンの麻薬漬けの少年兵の
社会復帰のための更生プログラムの現場から
ガザ地区の少女の背中にナイフで描かれた
鉤十字のアナグラムの見学後は各自
自由行動になります

道に迷ったら
私が案内所で渡した
ポケットの中の詩集を開いてください

「ガラパゴス日本」
火曜日 燃えるごみの日 ゴミ袋を集めて回る
ゾウガメみたいなゴミ収集車と
青い作業着の僕らの背中に向かって
保育園の柵越しに 小さなサポーターたちが声援を送る

がんばって
がんばれ
応援してるから

水曜日 億万長者の歌姫ケイティは
往復11分間3億円の宇宙船で 息抜きの女子会
戦争と旱魃で3秒に1人が死ぬ
地球の煩わしさから逃れるためか

木曜日 新聞をめくり テレビのチャンネルを回す
あいにくスマホ嫌いでガラケー頼みの
水も酸素も紙も匂いもない
月とインターネットの世界には
一日だって滞在したくないし興味もない僕は
一年中青い作業服を着た 青虫

ちょっとそこまで歩いていく この足で充分
奇跡的にコーヒー牛乳とチェルシーと
彼女の笑顔があるスーパーマーケット
偶然を装いながら
胸にカタカナの名札をつけた
彼女のレジに毎日並び
交わす会話は相変わらず

レジ袋は?
大丈夫です

のたった二言の共通語でも
今日はちょっと
釣銭を渡す彼女の指先が
蝶の足のように僕の指に触れた

「おたがいさまの国」
僕らが生まれた国は
アニメ先進国でも
経済大国でもない
アメリカの飼い犬でもないし
すめらみくに(皇御国)の国でもない

有事でも 無事でも
僕らが暮らす国は
助かります お大事に
お互い様の国

ありがとう
こちらこそ
いただきます
ごちそうさま
行ってきます
気をつけて

言葉の軒下に
心の燕が巣をつくる国

生まれてこなければよかった、と
君が背を向けた国は

ただいま
おかえりなさいの国

「がんばれ日本」
コンビニのレジの横に置かれた
台湾地震の募金箱に百円玉を入れ
がんばれ台湾、と
僕が決め台詞を言ったら

オマエモガンバレニッポン、と目の前で
店員の唐(タン)さんに言われた

それもそうだな


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コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

※隔週での更新を予定しています。

連載7

「純のための詩」
あったかく死んでいる
冷たく生きている
ぼくも きみも

その冷たさは氷のようだ
その冷たさは光のようだ
絶望でも希望でもない
ひとりでいるということは
毎日 でかけるということは

答えが欲しい
誰も答えられない答え
ぼくはみんなに尋ねる
ぼくがきみに答えられなかったことを
なぜ人は夢をみるのか
火はすべてを燃やしつづけるのか
悪さをする人間は滅びるのか

靄のなかで血を流していても 誰も気づかない
心のなかで叫んでいても 誰にも聞こえないように

答えが欲しいのは
きみでなく ぼく

「さよならプロレス」
醜悪な日米ダブル追放マッチの ジェイ・ホワイト
元デスマッチプリンスの ドリュー・パーカー
私に最後まで返事をくれなかった
ふたりの
プロレス
泣きながら手紙を書いた
プロレス

シナリオのない素晴らしいドラマと感動をくれた
日本のプロレス
学び舎だったプロレス

愛と憎しみと嫉妬が赤裸々だった
プロレス

歯に衣着せぬ
プロレス

友情と裏切りと連帯
ある時は思想に血走った
プロレス

素直でなかった
プロレス
素直だった
プロレス

フリーランスのプロレスラー
インディー団体のプロレスラー

札束を積んでスターを買い漁り使い捨てる アメリカンプロレス

好きなレスラーがいて他人事でない 日本のプロレス
夢見がちになっても熱狂するには至らなかった
プロレス

でも楽しかった
日本のプロレス

でも泣いた
日本のプロレス

日本の国技
プロレス

過ちのプロレス
正しさだけじゃないプロレス

でも未来にもあるだろう
プロレス

さよなら
プロレス

命賭けの
プロレス

わたしの
プロレス

「シスター54」
シスター54は
誰の代弁もしないし
するつもりもない
たとえ私があなた方を理解できても できなくても
たとえあなた方が私を理解できても できなくても

そう言って
砂塵の彼方に
去っていった

限りあることへの愛と尊厳
己でしかないことの孤独と別れを引き受けた
そして自分の進む道ではほとんど出会う人の居ない事を
恐れるのをやめて

シスター55は
身につけるべきは
ゆるぎのない己であり
脱ぎ捨てるべきは
他者との違いであり
それが成熟した人と人との調和だと気づいた
そして自分は未熟だったと気づいた

だから
Xにではなく
一枚の紙を買ってきて
テーブルの上で白い血を吐きながら
突っ伏し

黒いインクを見ることなく
天に召された


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コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

※隔週での更新を予定しています。

連載6

「ゼロ円」
マクドの店員の笑顔も
生まれてきた赤子の泣き声も
どちらもゼロ円

冷蔵庫にマグネットで留めた
五歳のあんたがクレヨンで描いた
ピカソみたいな私の顔

中学の卒業文集にあんたが書いた
プロレスラーになる夢
リングの上で棚橋みたいに叫びたい
プロレスを愛するみんなに向かって
愛してます、と

ちゃんと食べてる?
ほんま無理せんといて
東京で就活中の息子を案じて
ガラケーで電話した母に

アホくさ
そんなん一円にもならん
そう答えたZ世代のあんたの笑顔は
いくらかね

あんたの誕生日に
分娩室で痛みに耐えてあんたを産んだ
私の陣痛は
ゼロ円だよ

「心守り(こころもり)」
電気
ガス
上下水道
交通
通信
絶え間なく張り巡らされたライフライン
一年365日 家々の暮らしの動脈を
保守点検し続ける人達のことを
命守りと呼びませんか

政治
経済
宗教
教育
戦争
弱肉強食の共同体
目先の利益のためにその他大勢の運命を操り
人権を盗む奴等のことを
鬼畜守りと呼ぶように

掃除
洗濯
炊事
育児
介護
スーパーマーケットのレジ係
小さな幸せのために
大切な壊れやすいもののために
雨の日も風の日も淡々と静かに微笑みながら
家庭というライフラインを
保守点検し続ける人達のことを
心守りと呼びませんか

なりたいと思えば
守りたい人がいれば
誰もが心守りになれる

「ハッピーエンド」
イスラエルがイランの市街地に
ミサイルを撃ち込み
イランがイスラエルの市街地に
ミサイルを撃ち込み
仲裁にはいったアメリカが
イランの核開発施設に
6発のミサイルを撃ち込んで
停戦合意のハッピーエンド

歴史的勝利だ とネタニヤフ首相
我々は偉大な勝利を手にした とハメネイ師
アメリカの攻撃が中東に平和をもたらした とトランプ大統領

ふーん
結局負けたのは
空爆で死んだ私たちだけってことね
サイゴン トーキョー ガザと同じように

静けさが戻ったバグダッドの棺の中から
首から下が行方不明の美大生の女性が
Xに投稿した

まだ人間のみなさん
もし私の半壊のトルソーを見つけたら
あそこ ニケ像の隣に展示してください
題名は
「ハッピーエンド」

作品に触ってください
蛆虫が射精しています


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コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

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連載5

「いちばん」
もしも一番売れたラーメンが
史上最高のラーメンだとしたら
世界中でいちばん旨いラーメンはカップヌードル

もしもインターネットの一番多い再生回数が
人類最高のエンターテイメントなら
世界中でいちばんの娯楽は女の裸とセックス動画

もしも一番読まれている書物を書いた著者が
歴史上最大の文豪だとしたら
それは神とその無数のゴーストライターたち

それってやばくないですか
かっこ悪くないですか

本物の文学が
本物の映画が
本物の農業が
聖なる水源と光源を売り渡して得る
一番の誤謬(ごびゅう)にリボンをつけて
子供たちにプレゼントするくらいなら

一番なんてないほうが
いちばんいい
そうは思いませんか

「かくれんぼ」
もういいかい?
まあだだよ

あの日 きみは能登の朝市通りで
そう歌いながら
焼け残った瓦礫の下で
かくれんぼ

もういいかい?
まあだだよ

そう答えるきみの声が
空から降ってくるまで
ぼくは生き馬の目を抜く東京で
容赦ない時間と群集の鬼ごっこ

死ぬほどつまらない大人になったけれど
ぼくはまだ言えない
もういいよ
こんな世界なんて

もういいかい?
まあだだよ

今夜も笑顔で
きみはそう繰り返すから

ぼくの台所の引き出しの奥で
書きかけの遺書とロープはなかよく
かくれんぼ

「約束のない怪獣」
ウルトラマン
やっつけてください
君が そこでナイフで刺すことが問いで
僕が ここで電車に飛び込むことが答えなら

それ以外何ができますか
それ以上どこへ行けますか
感情という約束のない
怪獣のために

ウルトラマン
殺さないでください
君が そこでナイフを棄てることが問いで
僕が ここで電車に乗ることが答え


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連載4

「君が欲しい」
正しさは麻薬だ
それに依存するな
無関心は疫病だ
それに感染するな
この世界はクソだ
それに同化するな
凡庸さは悪だ
それに服従するな

銭はいらない
銃はいらない
神はいらない
ただ君が欲しい

「飛んでみようか」
苦いミルク
青く塗った鳥
大人が正しかったことは一度もない

対岸で 弾け飛ぶ ヒマワリ
降り注ぐ 黄色い 流れ星
何もかもを手に入れた皇帝が失ったものの
リストをつくろうか

人を殺すことが 無比の 強さなら
僕は 無限の 弱虫になろう
つまり
国のために 死ぬことが 勝つことなら
喜んで 哭く 負け犬に

灰色の国境
深紅の唇
最初で 最後の キスの後
何もかもを失った僕らが手に入れた
青い翼で

白いジャズ
黒い雨
飛んでみようか
奴らが子供だったことは一度もない

「ザネリを助けることは難しい」
独りでごはんを食べることは難しい
独りで絵を描くことは簡単なのに
独りで喧嘩をすることは難しい
独りで笑うことは
独りでワルツを踊ることは
ごめんなさい、と言うことは

独りで生まれて
独りで死んでいくのに
独りで生活することは寂しい
独りで空を飛ぶことは寂しい
手紙を書くのと同じくらい
ザネリを助けるのと同じくらい
ありがとう、と言うことは

なぜなら生まれた瞬間から
僕らのDNAに予約されている
銀河鉄道の指定席は
二名一組

君がジョバンニでも
カムパネルラでも


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コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

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連載3

「はなまる」
悪い夢であってほしい、と
必死に思うしかない現(うつつ)を
そっと食べてくれる
もう一匹の獏を知りませんか

午前五時
役者の獏に渡された
黒塗りの台本は
「コロナの春」

せめて僕がうなされている夢のなか
もう一度彼女に会えたなら
あなたの体を蝕んだ悪性の腫瘍と新種のウイルス
悪い現をまっさらに平らげた後

あの時言葉にできなかった別れを
令和七年の命日には
唇のかたちの花まるで埋めつくしたい

「影法師」
ぼくの沈黙は うるさい
ぼくの闇は あかるい

人間は演じすぎた
心の眼を隠しすぎた
明るい正義と正解をつくりすぎて
その複雑さに影法師は影を潜めた

生まれたことが間違いだった
だから死ぬことが正解
そう言って キムチを漬けたきみの
正解を食べたい

きみの心臓は うるさい
きみの間違いは うつくしい

「続けかた」
自分の意志とは全然関係なく
あたしたちは生まれ
深夜の高速道路を逆走した
カボチャの馬車と衝突するみたいに
恋に落ちる

幸福はいつも
夏の夕立のように そそくさと始まり
何の前触れもなく あっけなく終わる

だからオッパ
あたしよりずっと強いオッパ
あんたの無言の背中と
震える拳を見つめながら あたしは思う

いま大切なのは金の使い方と
愛の続け方だと

「終わらせかた」
俺たちの人生には全く無関心に
戦争が始まり
二人分の記憶と暮らしを揺さぶる
奴等は醜悪な過ちをくりかえす

不幸はいつも
ブレーキとアクセルを踏み間違えた車のように
始まる

だからベイビー
俺よりずっと美しいベイビー
死んじまえ、と言って俺の心臓を殴ったお前の
拳の温かさに 俺は気づく

いま大切なのはゴミの出し方と
命の終わらせ方だと

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コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

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連載2

「シンボルスカ食堂」
二十四時間営業
年中無休
どの国にも
どの街にも
どの裏通りにもあって
メニューは一人に一品だけだから
きみは扉を開けて
そう言えばいい
三四朗です
いつもの

「ユリイカ」
他人が言えることは言わなくていい
他人ができることはやらなくていい
あなたにしか言えないことを
あなたにしかできないことを
しなさい

僕が9歳のとき 津波で死んだ
ママの言葉を思い出した
陸前高田発
能登半島経由の線路の上で

元旦の地震で父親を亡くした狼煙漁港の
15歳の少女に言えることは三つだけ

滅茶苦茶になった世界は
滅茶苦茶になったままでいい
ハザードマップと避難訓練を信じるな
滅茶苦茶な君のままでいい

僕らはサバイバーなんかじゃない
感情と記憶の石炭で走る蒸気機関車
自分の眼で地図を描き
自分の手でレールを敷きながら

長い長いトンネルの先に広がる街は
ユリイカ
僕らの名は
ユリイカ

「ラストオーダー」
音楽みたいな詩を書きたいと思っている
痛み止めのような詩を
陽射しのような詩を
空腹を満たすような詩を書きたいと思っている

でもそんな詩は食べ飽きた、と常連客の君が打ち明けた
厨房のカウンター越し
午前4時のシンボルスカ食堂で

「ラストオーダーを自分で決めないのが芸術
いつの時代も詩人は年中無休、24時間営業だから」

値札のない詩を書きたいと思っている
百年後に認められる詩を
銃弾を止められる詩を
人間を辞めなくていい詩を
アウシュビッツの後に詩を
この世界が終わる日に詩を書きたいと思っている

でもそんなメニューだけが詩じゃないとも
僕はフライパンを返しながら思っている

※コトバスキーは詩のロックバンドです。
ここに発表したすべての作品の著作権と責任は私達にあります。
またここで会いましょう! 
コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

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連載1

「メロンパン」
私を棄ててください
真冬の帰り道で
母が言う

そうします、と言った
私の赤いコートの
ポケットで四十年前のメロンパンが
カサカサ鳴った

「父を焼く」
隅田川の花火が暗い水面に散った
あくる朝
黒い服を着た私が東京駅から乗り込んだ
新大阪行き のぞみ348号

小田原駅通過
瞬きもせず
三河安城通過
振り向きもせず

時刻表通りに
自分の夢の終着駅に向かって
猛スピードで遠ざかる父の背中を
ただホームから黙って見送るしかなかった
母と幼い私たち

独りぼっちの台所で
心の山道で呼べども呼べども帰らない
こだまを
フライパンで焼くしかなかった
読書好きの母の背中

これがあなたの望みですか
これで満足ですか
さわやかに野垂れ死にできましたか
401号室のレールの上で

あした鶴見緑地で
父を焼く

「里親はじめます」
あなたが言った言葉
あるいは言わなかった言葉の
里親になってもいいですか
血の繋がりはなくても
あなたが手に取ったナイフ
その胸に突き立てたナイフの
里親になってもいいですか
迎える家があります

誰かが切った糸
あるいは誰も結ばなかった糸を

あなたが凍えた景色
あるいは見れなかった景色の
里親になってもいいですか
陣痛の痛みはなくても
あなたが温めている卵
あの場所に置いてきた卵の
里親になってもいいですか
取り上げる手があります

この世に響いた産声
あるいは誰にも響かなかった産声を

※コトバスキーは詩のロックバンドです。
ここに発表したすべての作品の著作権と責任は私達にあります。
またここで会いましょう! 
コトバスキー:高野大、マスター・イーノ

※隔週での更新を予定しています。

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