コトバスキー
連載1「メロンパン」「父を焼く」「里親はじめます」
連載1
- 「メロンパン」
- 私を棄ててください
真冬の帰り道で
母が言う
そうします、と言った
私の赤いコートの
ポケットで四十年前のメロンパンが
カサカサ鳴った
- 「父を焼く」
- 隅田川の花火が暗い水面に散った
あくる朝
黒い服を着た私が東京駅から乗り込んだ
新大阪行き のぞみ348号
小田原駅通過
瞬きもせず
三河安城通過
振り向きもせず
時刻表通りに
自分の夢の終着駅に向かって
猛スピードで遠ざかる父の背中を
ただホームから黙って見送るしかなかった
母と幼い私たち
独りぼっちの台所で
心の山道で呼べども呼べども帰らない
こだまを
フライパンで焼くしかなかった
読書好きの母の背中
これがあなたの望みですか
これで満足ですか
さわやかに野垂れ死にできましたか
401号室のレールの上で
あした鶴見緑地で
父を焼く
- 「里親はじめます」
- あなたが言った言葉
あるいは言わなかった言葉の
里親になってもいいですか
血の繋がりはなくても
あなたが手に取ったナイフ
その胸に突き立てたナイフの
里親になってもいいですか
迎える家があります
誰かが切った糸
あるいは誰も結ばなかった糸を
あなたが凍えた景色
あるいは見れなかった景色の
里親になってもいいですか
陣痛の痛みはなくても
あなたが温めている卵
あの場所に置いてきた卵の
里親になってもいいですか
取り上げる手があります
この世に響いた産声
あるいは誰にも響かなかった産声を
ここに発表したすべての作品の著作権と責任は私達にあります。
またここで会いましょう! コトバスキー(フロントマン)高野大
※隔週での更新を予定しています。




